原付暴走・タクシー爆走主義

3日間台湾旅行をして一番面白かったのが、帰りにM田氏の妹が運転する車に乗せていただいたことだった。
M田氏のお母さんとM田氏の会話がよかった。
保守主義・堅実保守路線・新保守主義・革新路線」などというワードが二人の間から飛び交い、僕は笑いが止まらず、M田氏の妹は会話の意味不明さに圧倒されてエンストを起こした。
2番目に面白かったのが、原付暴走族であった。
もうありとあらゆるものが原付、台湾は原付中心主義であった。
道路を走る車の50パーセントが原付。放置自転車などなく、放置原付が街を埋める。日本の駅前の放置自転車が全部原付に置き換わったと思えばよい。
交差点で信号が赤になれば、見る見るうちに原付が停止線に溜まっていく。信号が青になったときにはすでに30台を超える原付が一斉にスタートするから、ものすごい。
しかも、原付運転手どもはやりたい放題である。二人乗りは当然であり、最大4人乗りを見た。セかチューのように、後ろに女の子が横乗りしているのもいた。シャツを裏返しにして着ている運転手を5人見た。
さらに、原付どもは自分たちが王様だと思い込んでいるらしく、道を見つければどこであろうと爆走する。夜市という、まるで上野のアメ横のような賑わいのとおりがあり、そこは道幅5メートルくらいしかないのだけれども、そういうところを屋台や歩行者がひしめいている。そういう場所を、お構いなしに原付は時速30キロで走る。軽トラックも時速30キロで走る。僕は走る原付に体当たりされ、友人のやぐっちゃんは軽トラックのサイドミラーに肩をぶつけられた。ぼこんという音がして、ミラーがへんまがった。運転手は、さも日常茶飯事のように、窓からさわやかな顔をにょきっと出し、やぐっちゃんに向かって「すまないねえ」という風情で手をふり、ミラーを適当に調整し、去っていった。
3番目はタクシーが面白かった。5回乗ったので、それぞれの運転手の特徴を以下にまとめる。
一人目…DVDで音楽を聴く主義。ノリノリのビートで普通道路を時速80キロで走る。
二人目…ノンブレーキ主義。時速80キロは当然。歩行者が横断歩道を渡ろうとしていても、構わずそこを突っ切る。原付の巻き込み確認をしないどころか、率先して巻き込み主義。赤信号は躊躇せずに無視する主義。
三人目…俊敏な動き主義。ノンブレーキは当然。さらに、機会があれば余所見主義。時速80キロを出しながら手元の飴を取り出し、ものすごいスピードでそれを口に投げ、しゃしゃっと窓を開け、ゴミをポイ捨て主義。最後にやぐっちゃんの1800元(約5400円)をぼろうとしたが、M田氏のおかげで助かった。
四人目…元やくざ主義。三人目まででこの国のタクシー事情が理解できた僕は、四人目のときはもう「歩行者ひいてまえ! アクセルもっとふんでまえ! むしろ事故りましょうや、みつお(仮)さん!」と、運転手が日本語を理解できないのをいいことに、調子に乗ったことを叫んでいた。そうしたら、運転手が「トヨタ一番、東京一番、新宿一番」と片言の日本語をしゃべりだしたので、あわてて僕は、「山崎一番」と言ってごまかした。ちらりと彼の左手を見ると、親指以外の4本がないのに気づき、背筋が凍った。最後にM田氏が40元をぼられ、M田氏が抗議を開始しそうになったが、慌てて僕はとめた。
五人目…堅実主義。静かな闘志を燃やすジェットリーのようだと思った。意外にも日本にもいそうな安全運転主義のようだった。

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