山寺日記。


山形県の山寺に行った。
それで帰る段になって電車の時刻を確認したら、まだ時間があった。
だから、松尾芭蕉記念館というところに行ってみた。
途中、のぼりの坂道があった。
そこで3人の女の人らが、なんか坂道で座ってるおっさんと談笑していた。
おっさんは風景画を描いていた。
ああ趣味で絵を描いてる人か、いいなあこういうの、と思った。


さて、再び駅へ向かおうとすると、またこの坂道を通らねばならないのですが、さっきの絵描きが一人でいて、なんかずっとこっちを見ているわけです。
ちょうど真横くらいに近づいたときに、「どこから来たの」と話しかけてきました。
「仙台です」と答えました。
「君は何をやっている人なのかね」と絵描きは笑顔で続けてくるのです。
「大学生です」と答えました。
「何を学んでいるのかね」「電気関係です」「ということは将来もそれを続けるのかね」「いえあまり好きではないので続けません」「じゃあどういうところに就職しようとするのかね」「もうきまっています」「ほう、どういうところ?」
いきなり面接が始まりました。かなりのレベルを感じました。
あんま自分の個人情報をさらすのは嫌だなあと思いつつも、まあこの先この人は僕の人生に関わることもないだろうから、別にいいか、と思って就職先のことを答えてみると、
「ということは、電気の研究には興味がなくなったが、それを生かせるようなところを選んだわけか」
とにこにこしながら答えてきました。そして、自信満々な笑顔で、こう言うのです。
「全てが見える。君がどうして道を選んだのかも。そして君の将来も全て分かるぞーははは。わしはこの道30年だからな。誕生日さえ分かれば、全てが分かる」
そしてバッグから本を取り出しました。なんと、絵描きは占い師だったのです。期せずして占い師に会えました。
そこでこう言ってみました。
「占いって、誰にでも当てはまるような抽象的なことをおおまかに言っておいて、聞いている人に、あたかも占いが当たっているかのように見せかけてるだけですよね」
するとおっさんは、「全然違うぞ、ははは。いわゆる統計学なのだよ」と、僕の主張を早くも認めてしまいました。「少しだけなら無料で見てやるから」と言うので、「ああこうやって興味を持たせておいてあとでお金を取る段階までいかせようとするのだなあ。それは嫌だなあ」と思いましたが、面白そうなのでとりあえず聞いてみることにしました。
でも僕は、やっぱり個人情報を、素性の知れないおっさんには言いたくないなあと考え直して、誕生日を言わないことにしました。でもおっさんは、ペンとメモ帳まで用意して、占いを始める気満々です。
おっさんは、何度も「誕生日さえ分かれば、誕生日さえ分かれば」と主張するので、しょうがないから教えました。
すると、「分かった」とのたまうのです。そして「君は彼女はいるかね」とたずねてきました。
「去年の8月から、今年の3月までいました」と答えました。
おっさんは気をよくして、「ほら見なさい。君の場合、女運が7,8,9月に強い。そしてだんだん帝王の成分が強くなって、冷静さを取り戻すのが3月。つまりこのときに自立心が強くなり、別れたのだよ」
すごい自信満々な様子でした。それで僕も、「はあすごいですねえ」と感心して見せました。本当は大学に入ってから、一度も彼女が出来てません。
「ところで君は将来出世したいか?」と聞かれたので、「いいえ、なるべく自分の時間を持ちたいので、出世とかはあまり考えてないです」と正直に答えたら、「そんなことはない。この帝王の成分を見なさい。君は事業家に向いているはずだ。上昇志向が高いからなあ。あるいは社長になれるかもしれんぞ。わしには将来全部見えてるぞ」
しょうがないから、話に乗ることにして、「そうなんです。本当は事業をおこしたいんですよ」
「それはいつごろ?」ときかれましたが、別に事業をおこすとか社長になるとか考えていないので、答えようがないです。仕方ないので、「35くらいですかねえ」と答えておいたら、あきれたようにおっさんはこう云うのです。
「ダメだな。確実に失敗するな。でもわしは、どの時期に事業をおこせば成功するかが、全て見えているよ」
なるほど、こうやってこの先の話を聞かせたがり、僕が聞こうとすると、お金を取るのだろうなあと思いました。なので、「じゃあ保守的に、事業をおこしません。てか、将来のことは僕にも分からないので、先のことはむしろ言わないでください」と答えました。すると、「そんなんじゃダメだな。だって事業家に向いてる人は、もうこの時点で、早く教えてくれ早く教えてくれと、貪欲に聞いてくるはずだ」
と、どうしてもこの先の話を聞かせて、お金をぼったくろうとしてきます。それでも僕は応じません。すると、おっさんは、「わしが見ればすべて正解するからな。芸能人でいえば、タモリみのもんたあたりは、すごい帝王の成分があるな。何より最強なのは、さんまだよ」
と、長々といかに自分がすごい占い師であるかをアピールするのですが、出てくる名前全てが、すでに売れている人であって、どうにでも言える人ばかりだなあと思いました。
というか、そろそろ電車の時刻がせまっているので、早く帰らせてほしいんですけど、なかなか帰してくれません。
やっとおっさんは諦めて、「もう君は事業家なんかに向いてないよ。大きいことやると失敗するから、普通に生きなさいよ」
と呆れたように言って、僕を解放してくれました。最初に「君は事業家か社長に向いている」とか言っていたけど、その話はどこに行ったのかなあと思いながら、帰りました。