上手な怒られ方、奥義「バルコニー俯瞰術」

大変だ。教授がお怒りモードで電話をしてきました。
当然だ。もう半年くらい研究室に行ってません。
重要な話があるから今すぐ来なさいとのことだ。
しかしそれは無茶だ。
しかも、わが教授は理不尽なことで有名。こちらの要求など聞く耳も持たない。
というか、そもそも教授のほうから「研究室に来るな」といわれたのでそのとおりにしているだけであって、なぜ怒られているのか理解できない。
しかし、私はあの伝説の奥義「バルコニー俯瞰術」を使用することによって、なんと日付をあさってに延期してもらい、なおかつ、最初はお怒りモードだった教授を、電話の最後のほうでは平穏な声色に戻すことができた。
はっきり言って私は何もしてない。なのに、状況を私の有利な方向に導いたのだ。
本当は誰にも教えたくなかったけど、せっかくなので、禁断の奥義「バルコニー俯瞰術」を、公開します。




〜奥義「バルコニー俯瞰術」〜
発動条件:相手が理不尽に怒っているとき
効果:相手の言動を全て無効化する
発動手順:
 相手が理不尽に怒っている、あるいは、頭に血が上って理不尽な要求を突きつけてきたと判断したら、即座に次のことを頭の中にイメージせよ。
1、私は今、建物の2階のバルコニー(ベランダ)に立っている。
2、バルコニーの上から下を見下ろすと、理不尽な相手が、私そっくりの姿の偶像に向かって怒っている。
 つまり、相手は私のことを怒っているつもりでいるが、実はその怒っている対象は、単なる偶像、人形であって、本当の私は、誰にも手の届かない安全地帯「バルコニー」の上で、悠々と高みの見物をしているのだッ! だから、何を言われようとも、安全地帯「バルコニー」にいる私には何の効果もない。
 これぞ、「バルコニー俯瞰術」ゥゥゥゥ!!!




これだけでも大抵の相手はやりすごせます。ぜひ試してみてください。
でも私は、非常に冷徹です。やりすごすどころか、逆に自分の有利な方向に持って行きます。そのために、次の奥義を併用するとよい。




〜奥義「浮き草答弁法」〜
発動条件:相手が理不尽に怒っているとき
効果:相手の怒りが静まり、相手が勝手に解決策を考えてくれる
発動手順:全面的に自分の非を認める




はい、これだけ。全面的に自分の非を認めてください。
とはいえ、これは非常にむずい。あきらかに非は相手にあるし、論理的に矛盾したことを言ってくることもあるでしょう。
しかし、何を言われようとも、全て相手が正しい。
だから、はい、いいえ、で答えられるものは、全面的に相手を立てるほうを選らばなければならないし、少しの卑屈な表情も見せてはならない。
声ははきはきと。電話であろうと、何もない空間に向かって深いお辞儀を。




なぜこれがいいか。理不尽な相手に向かって、論理的に反論しても、意味がないどころが、逆に怒りを冗長させるだけである。
理不尽な人は、誰かに向かって怒ることで、自分と言う人間は正当だと思い込んでいるふしが多い。
そういう人に向かって反論などしても無意味だ。となると、こちらの非を認めるに限る。
するとどうなるか。
相手は、「ああ自分は今正しいことを言っているなあ。うまくこいつをやりこめているなあ」と、ジョジョに満足し始めます。

さらにこちらが平身低頭すると、さらに相手の幸福感が増す。
それでもこちらは、平謝りをやめない。もうとにかく、自分が悪い。言い訳などする余地もない。本当に申し訳ないことをした。
すると、相手は、「まあ、こいつは自分が悪いのを認めているし、これ以上ねちねち言うのはかわいそうだなあ。とりあえず、解決策くらいはだしてやるべきかなあ」と、思い始めます。
ここまで来たらしめたもの。
理不尽なはずの相手は、勝手に解決策を考えてくれます。




これぞ最強の奥義。
私はただ、相手に合わせて、まるで浮き草のように心の無い受け答えをしているだけなのに、相手が勝手に話を運んでいってくれる。
あーあ、禁断の奥義だったのに、公開しちゃったよ。